同じ「髪をいじる」でも、ブローは一晩で戻り、パーマは数か月戻りません。この違いはどこから来るのでしょうか。美容師の多くは「髪には3つの結合がある」と習いますが、どれが施術のどこに効くかを説明する言葉は持ちにくいのが実情です。この記事では3つの結合を「強さ」の順に並べ、それぞれがどの施術に対応するかを査読論文から読み解きます。
この記事のポイント
- 髪の形と強さは、強さの違う3種類の結合で決まります。強さの幅は約10〜70 kJ/molで、弱い順に切れます (1)。
- 水素結合は数が多いが弱く、濡れるとほぼ働かなくなります (1)。だからブローやウェットセットは湿気で戻ります。ジスルフィド結合は共有結合で最も強く、パーマや縮毛矯正は薬剤でこれを切って組み直す「パーマネントウェーブ」です (1)(2)。
- イオン結合は電荷どうしの結合で、pH(弱酸性かアルカリか)に反応します (3)。施術が一時的か永続的かは、その施術がどの結合に触れているかで説明できます。
まず土台 ― 髪は「ケラチンの束」と「うろこ」でできている
髪の内部(コルテックス)は、二つの部分からできています。一つは、αヘリックスのケラチンがコイルドコイルから中間径フィラメント(KIF)へと束ねられた芯です。もう一つは、そのすき間を埋めるマトリックス(KAP)です。外側を、うろこ状のキューティクルが覆います。強度を主に担うのはコルテックスです (1)(2)(3)。
結合とは、このタンパク質の鎖どうし、あるいは鎖の中をつなぐもののことです。次章から、その結合を「強さ」の順に見ていきます。強さの違いが、施術が戻るか戻らないかを分けるからです。
3つの結合は「強さ」が違う ― だから切れる順番が違う
髪の挙動は主に水素・ジスルフィド・イオンの3つの結合で説明され、その強さは約10〜70 kJ/molと幅があります (1)。最も弱い水素結合が先に、共有結合のジスルフィド結合が最後に切れます (1)。水素結合とジスルフィド結合が、強さの両端にあたります。
数のうえでは、水素結合はジスルフィド結合のおよそ9倍も多くあります (1)。ここで大事なのは、「弱い=悪い」ではないということです。弱い結合は「戻りやすい」結合だと読み替えると、施術の意味が見えてきます。
水素結合 ― 水で動く「一時的」な結合
水素結合は数が最も多いものの一本一本は弱く、水を吸うと働く本数が減り、濡れた状態ではほぼ消えます (1)。だからブローやウェットセットは形を変えられる一方、湿気で元へ戻ります。湿気で広がる・うねるのも、同じ理由です。
水素結合が濡れるとほぼ働かなくなること自体は、論文で確かめられています (1)。だから、水素結合に頼るブローやウェットセットが湿気で戻ることも、この水の作用から説明できます。形が「一時的」なのは、触れているのが弱い水素結合だからです。
ジスルフィド結合 ― 共有結合で最も強い「永続的」な結合
ジスルフィド結合は共有結合で、3つのなかで最も強い結合です。濡れた状態の髪の硬さは、ほぼこの結合に依存します(湿潤時の強度はシスチン量と強く相関し、相関の度合いはr²≈0.97)(1)。形をしっかり保つ「芯」の役割を担っています。
パーマと縮毛矯正は、この結合を組み替える施術です。まず還元剤でジスルフィド結合を切り、形を整え、酸化剤で組み直します (2)。1回の施術でも薬剤は髪の深部まで届き、X線回折ではコルテックスの分子構造に変化が見られます (2)。アルカリの縮毛矯正では、水酸化物もジスルフィド結合を切ります (3)。
この、最も強い共有結合を切って組み直す化学処理が、パーマネントウェーブ(パーマ)です (2)。水で働きが変わる水素結合とは違い、共有結合そのものに手を加えるところに、戻りにくさの違いがあります。
イオン結合 ― 電荷の結合で「pH」に反応する
イオン結合は、プラスとマイナスに荷電したアミノ酸側鎖どうしが引き合う塩橋です (1)。髪のタンパク質は酸にもアルカリにも反応する両性で、電荷の状態はpHによって変わります (3)。だからこの結合は、薬剤や水のpHに敏感です。
髪は本来、弱酸性です(毛幹のpHは4.5〜5.5)。表面の損傷はpH5〜7で最も小さく、pH9〜11で最も大きくなります (3)。アルカリに傾くと負電荷が増え、摩擦・広がり・切れ毛・絡まりが増えます (3)。パーマ・染毛・矯正など高pHの薬剤は、このアルカリ側にあたり負担になります (3)。
この仕組みを踏まえると、「弱酸性のケアが穏やかなのは、髪の電荷バランスが整うpH帯だからです」という説明が、出典付きでできます。
だから「シャンプーやトリートメントで結合を直す」は正確でない
シャンプーとコンディショナーは、1回の使用では髪内部の分子構造(ケラチンの配列・中間径フィラメント・内部脂質)を変えません。作用はキューティクル表面にとどまり、パーマで生じた構造変化を修復することもありません (2)。
表面のケア(滑り・静電気・櫛通りのよさ)と、結合レベルの変化は別の話です。「補修」という言葉の正確な射程は、ここで切り分けられます。結合そのものを組み直すのは、還元・酸化といった化学反応です。
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よくある質問
なぜブローやセットはすぐ戻るのに、パーマは戻らないのですか?
ブローやセットは弱い水素結合に頼ります。水素結合は濡れるとほぼ働かなくなるため (1)、湿気で形が戻ります。パーマは最も強い共有結合(ジスルフィド結合)を薬剤で切って組み直す「パーマネントウェーブ」です (1)(2)。触れている結合の強さが違うのです。
「弱酸性」がいいと言われるのはなぜですか?
髪は本来弱酸性で、pH5〜7では表面の損傷が最小に保たれます (3)。pH8以上のアルカリ性では負電荷が増えて摩擦・広がり・切れ毛が増え、pH9〜11では表面損傷が最も大きくなります (3)。弱酸性は、髪の電荷バランスが整うpH帯にあたります。
シャンプーやトリートメントで結合は修復できますか?
1回の使用では髪内部の分子構造は変わらず、パーマで生じた構造変化を修復する効果も確認されていません。これらは主に表面に働くケアです (2)。結合そのものを組み直すのは、還元・酸化などの化学反応です (1)(2)。
パーマ・カラー・縮毛矯正が髪に負担なのはなぜですか?
これらは多くがアルカリ性(高pH)で、長く留まると髪を傷めます (3)。さらにパーマ・矯正は、最も強いジスルフィド結合を切って組み直すため、内部の構造そのものが変わります (1)(2)(3)。
まとめ
3つの結合は、一本の軸で並べ直すと理解しやすくなります。
- 結合は強さが違い、だから切れ方が違う(約10〜70 kJ/mol、弱い順に切れる)(1)
- 水素結合=一時的(水で戻る)、ジスルフィド結合=永続的(パーマ・矯正)、イオン結合=環境依存(pH)(1)(2)(3)
- 施術が戻るか戻らないかは、その施術がどの結合に触れたかで決まる
この地図を手元に置くと、「なぜブローは戻り、パーマは戻らないのか」を、お客様に科学の言葉で説明できます。
参考文献
本記事の実測値・所見は、すべて手元の査読論文を一次ソースとし、NotebookLM(ノートブック「A1髪の3つの結合 根拠 参考文献」、論文3本収録)への問い合わせで内容を1件ずつ確認しました(確認日: 2026-06-29、全項目で逐語引用と一致)。Web検索の統計は使用していません。
- Breakspear, S., Nöcker, B., & Popescu, C. (2024). Chemical bonds and hair behaviour: A review. International Journal of Cosmetic Science, 46(5), 806–814. DOI: 10.1111/ics.12967
- Zhang, Y., Alsop, R. J., Soomro, A., Yang, F.-C., & Rheinstädter, M. C. (2015). Effect of shampoo, conditioner and permanent waving on the molecular structure of human hair. PeerJ, 3, e1296. DOI: 10.7717/peerj.1296
- Adav, S. S., Wu, A. R. Y. L., & Ng, K. W. (2025). Insights into structural and proteomic alterations related to pH-induced changes and protein deamidation in hair. International Journal of Cosmetic Science, 47(2), 281–296. DOI: 10.1111/ics.13029

